研究題目:
実世界オブジェクトの機能を拡張する主体的ヒューマンインタフェースに関する研究
研究者:
伊賀聡一郎(Souichirou Iga)
研究の概要:
本論文では、人間の身の周りの実世界オブジェクトによって人間が主体的に情報 操作や機器操作を行なうためのインタフェースを構成するコンセプトを提案した。そ して、新しいインタフェース方式として実オブジェクトインタフェースと装着型コン ピュータを用いるインタフェースの2 つを実現した。
はじめに、ものや道具といった実世界オブジェクトの操作を対象としたインタフェー ス方式として「実オブジェクトインタフェース」のコンセプトを提案した。実オブジェ クトインタフェースは、実世界のものや道具といった実世界オブジェクトの物理的な 機能や複数のオブジェクト間の関係を実世界の状況として識別し、その機能や物理的 関係を計算機システムに対応付け、実世界オブジェクトの操作によって計算機システム を操作するHI である。本研究では、実オブジェクトインタフェースの概念に基づく システムを実装し、本アプローチが触知インタフェースとして視覚障害者や高齢者な どの従来の視覚的HI の利用が困難であったユーザに対して有効であることを示した。 また、実オブジェクトインタフェースでは、実世界オブジェクトと関連付けされた 仮想オブジェクトの情報が単独で更新された場合に整合性が保持できないという問題 がある。これに対して、実世界オブジェクトの整合性回復を行なうインタフェースを 提案した。評価実験を通して、仮想オブジェクトにおける更新情報の変化を音響パラ メータ変化により表現して、ユーザ自身が実世界と仮想世界の対応を補正することが できることを示した。
次に、実世界オブジェクトの操作に加えて、実世界オブジェクトに対するユーザに よる主体的な情報機能付加を実現するインタフェースとして、「装着型コンピュータ」 を用いるインタフェースのコンセプトを提案した。装着型コンピュータは、実世界オ ブジェクトの物理的なHI 面に直接装着し、ユーザがその実世界オブジェクトのボタン や液晶ディスプレイなどのHI を操作する際の形状や表示内容といった物理的な変化を 読みとって、実世界オブジェクトの機能を拡張する小型の計算機システムである。本 研究では、装着型コンピュータの概念に基づくハードウェアシステムを実装した。そ して、本システムを実際に利用した家庭電化製品への装着実験の結果から、システム の操作方法の学習をほとんど行なわなくてもユーザは本システムを有効利用できるこ とを確認した。さらに、アンケートによる主観評価の結果も、本アプローチが示した ようなシステムをユーザが必要としていることを示唆している。
そして、本研究において提案しているこれら2 つのHCI 方式によって、身の周り の家電品、ものや道具といった実世界オブジェクトを利用して、ユーザ自身が主体的 に情報操作環境を構成することが可能になる。
近い将来には機器はハイテク化され、多くの機器がインターネットなどのネット ワークに接続され、実世界全体が情報操作環境となってくることが予想される。その 際には、ハイテク機器の操作は人間からは隠されるようになり、人間が機器と関わる べき部分は少なくなってくるだろう。しかし、単純に機器をインテリジェント化して、 操作を人間から隠蔽することは、人間の機器に対する主体的なコントロールやを欠如 させる恐れもある。また、ハイテク機器における過度のインテリジェント化によって、 作業の自動化が進むことは、作業を効率的にすることができる反面、機械への過度の 依存による人間自体の能力低下を招く恐れもある。本研究で示したように、ユーザの 身の周りに存在する実世界オブジェクトを利用して、ユーザ自身が主体的に情報操作 環境を構成して行くことによって、人間中心の情報社会の実現が期待される。しかし ながら、本研究で示したアプローチが、計算機システムの利用経験の少ない実際の高 齢者や障害者への利用に対してどの程度一般化できるのかなど、本研究だけでは言及 できない点もある。今後、本研究のように実世界オブジェクトを用いた計算機システ ムが社会に浸透した際には、社会学・認知心理学・医学など多方面からの研究アプロー チが行なわれることを期待したい。
Abstract:
発表論文:
- 椎尾一郎, 安村通晃, 福本雅明, 伊賀聡一郎, 増井俊之, モバイル&ユビキタスインタフェース, ヒューマンインタフェース学会論文誌, Vol.5, No.3, pp.313-322, 2003.
- 白井良成, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界の状況を利用した実画像による 情報検索手法, ヒューマンインタフェース学会 論文誌 Vol.2, No.4, pp.275-282, (2000 Nov).
- 飯田朱美, 伊賀聡一郎, 樋口文人, ニック・キャンベル, 安村通晃, 対話支援のための感情音声合成システムの試作と評価, ヒューマンインタフェース学会論文誌 Vol.2 No.2, pp.63-70, (2000 June).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界オブジェクトを利用するユーザインタフェースと 障害者支援技術への応用, ヒューマンインタフェース学会 論文誌 Vol.1, No.1, pp.53-60, (1999 Feb).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 装着型コンピュータ:家庭電化製品のユーザ インタフェース用超小型計算機, 情報処理学会論文誌 Vol.40, No.2. pp.381-388, (1999 Feb).
- 伊賀聡一郎, 新西誠人, 明関賢太郎, 樋口文人, 安村通晃, やわらかインタラクション: 「やわらかい世界」を対象にしたユーザ インタフェース, ソフトウェア科学会WISS'98, pp.137-142, (1998 Dec).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界と仮想世界を分離する新しいコンセプト: Real Object Interface and Transferred Object Interface, ソフトウェア科学会WISS'95, pp.57-64, (1995 Nov).
- 安村通晃, 伊賀聡一郎, マルチメディアからマルチモーダルへ, ソフトウェア科学会WISS'93, (1993 Dec).
- D.A.ノーマン著, 岡本明, 安村通晃, 伊賀聡一郎, 上野晶子訳, エモーショナル・デザイン, 新曜社。 (2004. Oct. 10 頃発売開始予定)
Emotional Designの翻訳。 - D.A.ノーマン著, 岡本明, 安村通晃, 伊賀聡一郎共訳, パソコンを隠せ, アナログ発想でいこう!, 複雑さに別れを告げ, <情報アプライアンス>へ, 新曜社, (2000 July).
- Scott Meyers著, 安村通晃・伊賀聡一郎・飯田朱美共訳, More Effective C++: 最新35のプログラミング技法, アジソン・ウェスレイ, 1998.
- S.オークスタカルニス, O.ブラットナー共著, 安村・伊賀・織畑共訳, シリコン・ミラージュ -- 仮想現実の科学と芸術, トッパン, (1994 Oct).
- 安村通晃, 岡本 明, 伊賀聡一郎, 上野晶子, エモーショナルデザイン ~使い勝手と美しさは両立するか?, 情報処理学会 ヒューマンインタフェース研究会, 2004-HI-111, pp.35-42, (Nov. 2004).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, AugPen:ペンタブレットとオーバーレイ技術を用いた拡張現実感システム, 情報処理学会 インタラクション2000, Interactive発表 (Mar. 2000).
- 樋口文人,伊賀聡一郎,安村通晃, 入出力機能を兼ね備えた口腔内デバイスの提案, 情報処理学会 インタラクション2000, Interactive発表, pp.59-60, (Feb. 2000).
- 伊賀聡一郎, 伊藤英一, 安村通晃, Kirifuki: 呼気・吸気を利用したGUI操作環境の提案, 情報処理学会 ヒューマンインタフェース研究会, (Jan. 2000).
- 新西誠人, 伊賀聡一郎, 樋口文人, 安村通晃, Hide and Seek: アクティブに応答するIDタグの提案, WISS'99, インタラクティブシステムとソフトウェアVII, (Dec. 1999).
- 新西誠人, 伊賀聡一郎, 樋口文人, 安村通晃, Hide and Seek: アクティブに応答するIDタグの提案, WISS'99, インタラクティブシステムとソフトウェアVII, (Dec. 1999).
- 飯田朱美, Srinivas Desirazu, 伊賀聡一郎, Nick Campbell, 安村通晃, 感情表現が可能な音声合成を用いたコミュニケーション・エイドの試作, 第1回 福祉情報工学研究会, (Nov. 1999).
- 福本麻子, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 心的回転を利用した インタラクティブな描画学習支援環境, 情報処理学会第56回大会, (Mar. 1998).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, Attachable Computer: 日常家電品の機能を 拡張する装着型インタフェースの提案, 情報処理学会 ヒューマンインタフェース研究会, (Jan. 1998).
- 門田光司, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 拡張現実感を利用した点字入力支援 システムの試作, 情報処理学会 76回ヒューマンインタフェース, 情報メディア合同研究会研究報告, 98-HI-76, 98-IM-33, pp.73-78, (Jan. 1998).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界オブジェクトの操作列の自動生成による ユーザインタフェース, 計測自動制御学会 ヒューマンインタフェース部会 第13回ヒューマンインタフェース シンポジウム(HIS'97), (1997 Oct).
- 伊賀聡一郎, 門田光司, 安村通晃, 人間の視覚空間探索モデルに基づく 視覚障害者のための感覚代行技術の検討, 情報処理学会 ヒューマンインタフェース研究会, (Sep. 1997).
- 樋口文人, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 留学生のための World Wide Web 上での 学習支援システム, 情報処理学会 ヒューマンインタフェース研究会, (May. 1997).
- 飯田朱美, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 韻律にみられる感情表現について, 情報処理学会第54回大会, (Mar. 1997).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界のもののアフォーダンスを利用したインタフェース における音声利用方法の検討, 情報処理学会 音声言語情報処理研究会 15-12, (Feb. 1997).
- 飯田朱美, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 音声に見られる感情表現について: 聴取実験結果の分析, 情報処理学会 音声言語情報処理研究会 15-20, (Feb. 1997).
- 伊賀聡一郎, 津田智紀, 安村通晃, WebMall: 制約型ハイパーネットワークに よるWWW上での効果的なコースウェアプラットフォームの構築, 情報処理学会 インタラクション'97, (Feb. 1997).
- 樋口文人, 伊賀聡一郎, 安村通晃, World Wide Web ブラウザを用いた留学生の ための日本語能力支援システム, 情報処理学会 インタラクション'97, (Feb. 1997).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 実世界のものを利用した障害者計算機利用システムの 試作, 計測自動制御学会ヒューマンインタフェース部会 第12回ヒューマン インタフェースシンポジウム(HIS'96), (1996 Oct).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 電子的な棒を利用した実世界指向の情報発信と検索, 計測自動制御学会ヒューマンインタフェース部会 第12回ヒューマン インタフェースシンポジウム(HIS'96), (1996 Oct).
- 高橋和哉, 伊賀聡一郎, 安村通晃, "COSMIC SCORE" -- 3Dスコアを用いた マルチユーザのための作・編曲システム, 計測自動制御学会 ヒューマンインタフェース部会 第12回ヒューマンインタフェース シンポジウム(HIS'96), (1996 Oct).
- 八木正紀, 平栗 覚, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 音声対話におけるエージェントの態度と人間の発話の関連, 情報処理学会 音声言語情報処理研究会, Vol7 No.14, pp.85-90, (1995 Jul).
- 田中公二, 伊賀聡一郎, 井町真琴, 安村通晃, マルチメディア語学学習環境 MALLの開発と利用の現状について, 情報処理学会 人文科学とコンピュータ 研究会, Vol.26 No.8, pp.43-48, (1995 May).
- 伊賀聡一郎, 安村通晃, 視覚障害者教育支援システムInvisible Managerの 設計と試作, 情報処理学会第50回全国大会, (1995 Mar).
- 八木正紀, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 音声対話におけるエージェントの態度が 人間に与える影響, 情報処理学会第50回全国大会, (1995 Mar).
- 佐藤宏之, 伊賀聡一郎, 安村通晃, 遠隔デスクトッププレゼンテーション システムのデザイン, 計測自動制御学会第10回ヒューマン・ インタフェース・シンポジウム, (1994 Oct).
- 伊賀聡一郎, 佐藤宏之, 安村通晃, 遠隔プレゼンテーション支援システムの 試作, 情報処理学会第49回全国大会, (1994 Sep).
- 田中公二, 伊賀聡一郎, 安村通晃, ネットワークベースのマルチメディア 語学学習環境の開発, 情報処理学会第49回全国大会, (1994 Sep).
- 田中公二, 伊賀聡一郎, 岡部 学, 安村通晃, マルチメディア語学学習環境の 開発と評価, 情報処理学会 コンピュータと教育研究会, Vol.33 No.4, pp23-30, (1994 Jul).
- 安村通晃, 伊賀聡一郎, マルチモーダルインターフェイスの試み, 情報処理学会 第35回プログラミングシンポジウム, (1994 Jan).