研究題目:
センサを用いたスポーツ技能評価方法に関する研究
A Study of Evaluation on Sports Skill using Sensors
研究者:
仰木裕嗣(Yuji Ohgi)
研究の概要:
本研究の目的は二つある。まず第一の目的は、運動者の身体に装着したセンサから
得られる運動学的データを用いて、スポーツにおける運動者の技能を評価する手
法を提案し、この検証を行うことである。第二の目的はトレーニングにおいて利
用可能な新たなセンサデバイスを開発し、その有効性を検証することである。本
研究で用いたセンサは加速度センサおよびジャイロセンサである。
第一の目的を達成するために本研究では、まず格闘技・野球・水泳の つの競
技種目に関してセンサ情報を使った技能評価法を提案した。単発的運動の例とし
て格闘技の突き技および野球の投球動作を分析対象にした。これらの運動は上肢
の速度がパフォーマンスに直結する。前腕遠位手首部分に装着した加速度センサ
から得られる運動座標系における加速度データから、格闘技突き技動作では線形
重回帰を用いた衝撃力の推定と非線形判別分析を用いた格闘技種目判別を行った。
結果の分析から手首加速度による衝撃力の予測と種目判別が可能であることが明
らかになった。野球投球動作においては、線形重回帰を用いた手首加速度による
投球速度推定が高精度で可能であることが明らかになった。次に周期的運動であ
り、上肢の水中における三次元的動きがパフォーマンスに直結する水泳を分析対
象とした。水泳においては周期的に変化する手首加速度から、種目固有の特徴が
得られることがわかり、非線形判別分析法により泳種目判別が高精度で可能であ
ることが明らかになった。また三次元映像解析の結果から、加速度波形上の特徴
点によってストローク局面の同定が可能であることも明らかとなった。
以上のことから、手首に観察される加速度データからは選手の技能を知る手が
かりが含まれていることが明らかになった。従ってこれをトレーニング場面に応
用するには有線計測ではなく、新たな、より小型の計測デバイスが必要と考えた。
そこで、第二の目的を達成するために水泳を対象種目とし、水泳トレーニング中
に長時間装着可能なマイクロコンピュータを用いたデータロガー型デバイス、
(1)3
軸加速度センサ内蔵デバイス、
(2)3軸加速度センサ+ 軸ジャイロセンサ内蔵デ
バイスの タイプを開発した。 軸加速度センサ内蔵デバイスによってこれまで不
可能であったトレーニング全時間中の手首加速度の計測が可能になった。
この新たなデバイスの応用例として、疲労による手首加速度の変化を観察する
ことに用いた。計測データの分析から運動者の疲労状態が加速度波形に現れるこ
とを発見し、これが動きの局面推定だけでなく疲労判定にも用いることが出来る
ことを実証した。 軸加速度センサと 軸ジャイロセンサを内蔵したデバイスを用
いた泳法分析結果からは、加速度波形によってすでに明らかになっている局面推定のあとで角速度波形の値から各局面内での前腕の挙動を知ることが出来た。特
に前腕遠位!近位軸回り角速度によって明らかになった前腕長軸回りの回転運動で
ある回内外の挙動の計測はこれまで 次元映像解析では不可能であった。また前
腕尺骨!橈骨軸回り角速度と手背! 手掌軸回り角速度の双方の値によって肘関節屈
曲時の前腕の姿勢が推定可能になったことも新たな知見であった。従って、角速
度から得られる情報の有効性がこのデバイスにより確認された。
このようなセンサ内蔵デバイスは、コーチの立場でみるといち早く選手の動き
の変化がどの局面に起こったのかを知るための手がかりを提供してくれるため、技
術指導においての有効利用が期待できる。また今後、センサデータを用いたコー
チングシステムへの発展性が期待できると考えられる。
Abstract:
発表論文:
- 仰木 裕嗣, 安村通晃, 身体加速度によるスポーツパフォーマンスの評価, HIS'99(ヒューマンインタフェースシンポジウム), (Oct. 1999).
イメージ/ビデオ: