研究題目:
実空間の社会的インタラクションに適合する情報機器のインタフェースの研究
研究者:
児玉哲彦
研究の概要:
本研究は,人々が日々他者との関わりの中で暮らす生活環境において,日々発達する情報システムの導入がどの
ような影響を及ぼすのか,またそれらの情報システムがどのようにデザインされるべきかを検討するものである.
そのために,社会科学領域における社会的インタラクションのモデルを参照した.次いで,実空間の物理的な
セットアップが,インタラクションにおける情報へのアクセス・パターンとして構造化されていることを述べる.
そして,情報システムが導入されることは,そのアクセス・パターンを変化させるため,これまでは分けられて
いた複数の舞台に個人が同時に存在することが可能となり,結果的に,特定の舞台へのコミットメントが損なわ
れ,マナーやプライバシーの問題を引き起こすという問題を提起する.
本研究は,上述のような問題意識から,実空間の社会的なインタラクションに適合する情報システムを提案す
る.そのために,1) すでに一般的に導入が行われマナーやプライバシーの問題が広く報告されているインタラク
ションを対象に支援システムを提案する,2) 個々の情報システムが支援の対象とするインタラクションの物理的
なセットアップについて,定量的に特徴を明らかにする,3) 試作システムの有用性を評価する,というステップ
で議論を進めた.
まず,対面会話の支援のために,携帯情報端末を通じて視覚的なコンテンツを参加者間で共有するインタフェー
スであるDataJockey 手法を提案した.中華テーブルのメタファを用いたデザインが特徴である.対面会話の参
加者の,実空間と情報システムの双方を通じた情報アクセスとを,統一的に行えるようにすることを目的として
いる.2 種類の試作システムの実装を行った.DataJockey 手法の裏付けとして,被験者が,対面会話時の携帯情
報端末を用いるうえで考えられる複数の共有方法うち,いずれを好むかを調べた.次に,共有方法に応じた3 人
1 グループの被験者の位置関係の違いを調べた.またDataJockey 手法の有用性を示すため,本手法を用いた場
合と,端末を直接見せ合った場合とで,コミュニケーションの活発さを比較する実験を行った.
第二に,DataJockey のように携帯情報端末のコンテンツを他者に見せるアプリケーションにおいて,私的に利
用したいコンテンツの表示を切り替えるインタフェースであるHide&Seek 手法を提案した.Hide&Seek では,
端末を手元に隠している際には私的なコンテンツを表示する.端末を水平に近づけると,連続的に透明度が下が
り,周囲の他者から見える角度では私的なコンテンツが見えなくなる.DataJockey 試作システムの機能として
実装を行った.またHide&Seek 手法の裏付けとして,コンテンツを私的に扱う場合と,他者に見せる場合とにつ
いて,端末をどのような姿勢にして利用するかを調べた.Hide&Seek 手法がプライバシーの保持に有用かを検
証するため,私的領域の一部のデータを他の被験者から隠しながら,他の画像データを交換するというタスクの
ユーザビリティを評価した.
第三に,屋内の部屋に取り付けられた常時接続のネットワークカメラにおいて,外部からの視聴覚情報へのア
クセスを,ドアの開閉に対応付けるプライバシー制御手法であるちらりドアを提案した.ちらりドアでは,ドア
の開閉を計測し,開きの大きさを,ネットワークカメラから外部へ配信される映像や音声の情報量に対応付ける.
2 種類の試作システムを実装した.ちらりドア手法の裏付けとして,あるスペースにおいて,利用者が家にいる
か職場に居るか/部屋の周囲の他者の有無/行っているタスクの内容,から成る状況設定に応じて,ドアを用い
たアクセス制御を行っているかどうかを調べた.具体的には,それらの状況設定に対応したドアの開きを,セン
サーによって計測した.また,ちらりドア手法の有用性を示すために,特定の状況設定においてウェブカメラに
よって他者に公開する映像を適切な状態に設定できるかを検証した.実験1 で調べた,特定の被験者が特定の条
件で設定したドアの開きを,コンテクストに用いてウェブカメラへのアクセスを自動的に設定する(コンテクス
ト条件)ことで,コンテクストを用いない場合(ランダム条件)と比較して適切にプライバシーが制御されるか
を調べた.
Abstract:
発表論文:
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