「記憶する住宅」から始まる未来
2000年に「記憶する住宅」プロジェクトを開始しました。「記憶する住宅」は、住宅とそこに組み込まれたコンピュータ、多数のディスプレイを、記憶を想起させるための装置と位置づけ、積極的に過去の情報を多数のディスプレイに表示することで、過去を追体験するしかけです。建築とインテリア、コンピュータ技術、心理学とにまたがった領域をカバーする実験です。
近未来の住宅は、ますますデジタル機器の比重が高まり、たとえば大画面のフラットテレビ、プロジェクターによる大画面スクリーン、コンピュータのディスプレイなどがあふれるようになるでしょう。そのディスプレイにどんなコンテンツを映し出すのか。あるいはハードディスクによる記憶媒体があふれるようになり、まもなく人生を記録することさえ夢物語ではなくなりつつあります。そのときなにを記録し、住宅やインテリアはどのようなサポートをするべきなのか。
「記憶する住宅」では、近未来を先取りし、じっさいに75万枚の画像/写真、3,000曲の音楽、2,000時間以上の映像をデジタルアーカイヴの手法で用意し、表示して視認することで、コンテンツの表示には価値があることを確認してきました。住宅内部には配せんがまったく露出しない空間を実現しました。幸い(?)技術は順調に発展を続け、2005年現在コンピュータ用のディスプレイは17〜19型程度、フラットテレビは26〜32型程度、プロジェクターも10万円程度からと安価になってきました。
ハードディスクもiPod、DVD/ハードディスクレコーダー等に搭載され、最大では400〜500GB、小さなものでも20〜40GBなどのものが日常化しています。iPodでは、1万曲の音楽を扱えるようになっていますし、ハードディスクレコーダーでも、数百時間を蓄積できる機種が出ています。それでも住宅の進歩は格段に早くはなく、依然として電子機器やコンピュータは異物扱いされています。コンピュータは住宅にとって異物なのか。コンピュータによって記憶はどう変わるのか。
「過去なんて知ってどうするのか?」「ずっと見ているような暇があるのか?」「忘れたい過去だってある」「コンテンツをもっていないひとはどうするのか」「たくさんあって探せない」などの質問を受けます。今回は、建築、コンピュータ、心理の3方面で、「記憶する住宅」がどのような評価を受けたのか、それをご報告します。
美崎薫 プロフィール
美崎薫 (みさき かおる) misaki_kaoru@nifty.ne.jp
夢想家、未来生活者。未来生活デザイナーにして、世界が注目する「記憶する住宅」プロデューサー。現実化した未来住宅を超え、記憶に近づくためのツールを作り出し、過去と未来の統合をめざしている。必要なものは作ることをモットーに、住宅、書斎、机を始め、多数のハードウェア、ソフトウェアの開発をプロデュース。年間に200冊の本を読み、6万枚の写真を撮る。
最近のfavoritesは、favorites:サンマルク・カフェ、川元利浩、安田美沙子、森絵都、ウォルフガング・ペーターゼン、水谷妃里、ライフ・アーカイヴ/スマート・ビュー、オダギリジョー
著書
「手で撮るようにわかるデジタルカメラ徹底活用術」「情報書斎が簡単にできる本」(二期出版)、「ほ〜、そ〜やるんだSOHO」(カットシステム)、「インターネット時代の情報整理術」(SCC)、「パソコンデータの捨て方 残し方 まとめ方」(青春出版社)、「デジカメ200%徹底的活用術」(KKベストセラーズ)、「なるほどナットク! ユビキタスがわかる本」「ITRON/JTRON入門」(オーム社)など多数。